健康寿命と骨粗鬆症
骨粗鬆症とは、骨が脆くなり少しの負荷でも骨が折れやすくなってしまう疾患です。日本において、転倒や骨折は寝たきりの原因として3番目に多く、要介護状態になる原因としても約10%を占めています。歳をとるにつれて骨も脆くなるため、高齢者に発症することが多い病気です。
生活の質を保ち、自立して過ごす期間である健康寿命を可能な限り長くするため、骨粗鬆症を予防し、最適な治療を行っていくことは重要です。
骨粗鬆症について
骨粗鬆症は、骨密度の低下によって引き起こされます。骨密度は骨のカルシウム含有量などの影響を受け、若い時期が最も高く、その後は歳をとるにつれて減少し続けます。骨密度が低下して骨粗鬆症を発症すると骨が折れるリスクが高くなるため、圧迫骨折と呼ばれる自分の体重で骨が潰れてしまうような骨折を起こすケースがよく見られます。
脊椎の圧迫骨折では痛みがないことも多いですが、進行することで背中が曲がり丸くなったり身長が縮んだりします。そのまま病状が悪化すれば要介護状態となるリスクも高くなります。
骨粗鬆症の原因
骨粗鬆症を発症しやすい方は、閉経後の女性です。骨は新陳代謝によって新しい骨を作り続けることで強度を保ちます。女性の骨代謝を正常に保つためには女性ホルモンが重要ですが、閉経すると分泌量が大きく減少し、骨密度の低下を招くケースが多いです。
閉経や加齢が発症の要因となることが多いですが、運動量の低下、飲酒や喫煙、過度な減量、食事の偏りも要因になります。中でも、過度に減量することで若い女性でも骨粗鬆症を発症することもあります。
その他、慢性腎不全や糖尿病、関節リウマチといった疾患により骨粗鬆症を発症することがあり、続発性骨粗鬆症と呼びます。なお、治療目的でステロイドを長期にわたり使用している方は、骨粗鬆症を発症する危険性が高いと言われています。
女性の骨粗鬆症
女性の骨密度に影響を与えるのは、女性ホルモンであるエストロゲンです。エストロゲンは、更年期から分泌量が不安定になって減少していき、閉経後にはほとんど分泌がされなくなるため、女性は年齢とともに骨粗鬆症を発症するリスクが上昇していきます。60代で約50%の方が骨粗鬆症を発症し、70代以上ではさらに増えていくと報告されています。
以上を踏まえると、50代になったら整形外科を受診し、骨密度測定や結果に応じた生活サイクルの改善などを開始することで効果的に予防していくことが大切です。早めに骨粗鬆症予防を開始し、健康に生き続けていきましょう。
骨粗鬆症の診断
まずは既往歴や内服薬、症状などに関して問診を行います。さらに血液検査、骨密度測定、レントゲン検査などを用いて診断を行います。
また、骨粗鬆症の代表的な症状として、脆弱性骨折があります。これは、健康な身体では問題ないような外からかかるわずかな力で骨折してしまう状態です。そのため、骨折で受診されたケースでは、骨粗鬆症による脆弱性骨折かどうかを確認するために検査を実施する場合があります。
骨粗鬆症の予防・治療
骨粗鬆症の予防には、運動習慣や食事習慣などのライフスタイルの見直しが有効です。病状が進んでいるケースではライフスタイルの見直しだけでなく、お薬を用いる場合もあります。
骨の新陳代謝に必要な栄養素
骨は常に破骨細胞による破壊と骨吸収、骨芽細胞による骨形成という代謝を繰り返して入れ替わっています。骨代謝を正しく進めるためには必要な栄養素を摂取することが重要です。具体的には、骨の主要な構成成分であるカルシウムやたんぱく質に加え、ビタミンKやビタミンDなどがあります。
食事療法
栄養バランスを考慮し、たんぱく質・カルシウム・ビタミンK・ビタミンDの含有量が多い食品を意識して摂取しましょう。また、糖質・脂質・リン酸・酸性食品の摂取は可能な限り避けてください。
積極的に摂取したい食品
カルシウム
小松菜、ひじき、こんにゃく、いわしの丸焼き、しらす、さくらえび・干しえび、乳製品など
ビタミンD
干ししいたけ、きくらげ、鮭、しらす干し、煮干し・いわしの丸干し、カツオの塩辛など
ビタミンK
カブ、ほうれん草、小松菜、シソ、パセリ、納豆、岩のり、わかめ、抹茶など
たんぱく質
納豆、豆腐、豆乳、大豆製品、魚など
できるだけ摂取を控えたいもの
酸性食品・糖質・脂質・リン酸を多く含有するもの、人工甘味料、果物、洋菓子、マーガリン、ベーコン、ハム、パン、インスタント食品、肉類、アルコール、カフェイン、食塩など
運動療法
運動による適度な負荷は、骨を強化する効果があります。加えて、運動による筋力アップに伴いバランス能力が向上し、骨折リスクを下げることに繋がります。そのためには、早足気味で散歩をする程度の運動量を1回30分程度、最低でも週に3回以上、可能であれば毎日行う習慣をつけることが望ましいです。
また、当院では柔軟性・筋力向上目的のストレッチや、加齢による膝の不安定性や痛みを改善する目的で膝周囲筋力強化運動、脊椎の圧迫骨折予防目的の背筋・腹筋運動など、骨粗鬆症に有効な運動指導も実施しています。
薬物療法
骨粗鬆症を発症した場合、症状、骨の状態、年齢などを総合的に判断し、お薬による治療が不可欠となった場合には、薬物療法を実施します。代表的なお薬は、骨形成を促し新しい骨をつくる骨形成促進剤や、骨の破壊を抑える骨吸収抑制剤です。注射剤の骨形成促進剤としてテリパラチド、骨吸収抑制剤としてイバンドロン酸やデスノマブ、両方の作用を併せ持つロモソズマブなどを用います。また、ビタミンKやビタミンDも骨の形成に関して必須栄養素なので内服薬を処方します。
骨粗鬆症の症状がある場合
骨折がなければ、何も症状に気づかないまま重症化していきます。骨が折れることで発覚することも多い一方、脊椎などは骨折したとしても痛みが乏しい場合も多く、背中や腰の痛みを感じて受診したことで骨粗鬆症が見つかるということもよくあります。
骨粗鬆症が誘因となった骨折では、脊椎の椎体圧迫骨折、肩の上腕骨近位端骨折、手首の橈骨遠位端骨折、股関節の大腿骨頸部骨折が多く見られます。手首の場合は転んで手をついた時に折れることが多いです。脊椎の椎体圧迫骨折は脊椎が潰れる骨折で、痛みをあまり感じずに背中が丸くなった、身長が縮んだなどがきっかけで判明する場合があります。
また、脊椎の椎体圧迫骨折は悪化することで、骨が神経や脊髄に力を加え、排泄障害や下半身の麻痺を引き起こす場合もあります。早期発見による治療や予防を確実に実施し、悪化防止や健康的に長生きしていきましょう。